菓子木型の今|木型作家SENさんインタビュー
和三盆作りに欠かせない存在、菓子木型。
伝統的な技術と意匠を凝らして丁寧に手彫りされたその姿には、実用性・美しさ・遊び心の三拍子が揃っています。
近年、木型の樹脂化や作業の機械化が進み、昔ながらの製法で木型を作る職人さんは随分と減ってしまいました。
しかし、手仕事でしか味わえない感動に魅了された人々が、今日も新たに木型作りへの道に飛び込んでいるのも事実です。
SENさんについて
HIYORIが木型をお願いしている木型作家・SENさんも、そんな新世代の作り手のひとりです。
常に自分らしく、のびやかに活動する彼女。これまでの歩みと今後について、お話を伺いました。
ーーー自分がいつも食べていた和菓子って、こんなのを使って出来ていたんだ!って。木型の世界が、自分の中にうわ〜〜って広がって、「作ってみたい」と思ってしまったんです。ーーー
はにかんだ笑顔で語るSENさん。
元々は幼稚園の先生をされており、2017年に何気なく訪れた展覧会で菓子木型と出会いました。
その華やかな衝撃に、いてもたってもいられず。展示内のVTRで紹介されていた職人さんに手紙を書き、「木型の彫り方を教えて欲しい」と伝えたところ、しばらくして「彫ってみますか?」と返事が来ました。
以降、月1回のペースで職人さんの工房を訪問し、木型の練習会を約2年間行うことに。
弟子と師匠という従来の関係性を超えて、柔軟に技術を教えてくれた職人さん。
彼のあたたかく寛容な心のおかげで、文化継承の新たな扉が少しずつ開きはじめました。
SENさんが晴れて独り立ちする時、【木取り】をどう行うか、という問題が残りました。
木取りとは、原材料の山桜の大木から木型に適した部分を選び、小さく切り出す作業。木型作りの最初の工程です。
ーーー自分にも家庭があるから、自分だけの動きはできない。木取りに必要な大きな機械は導入できないけれど…それでも木型作りを続けられる方法を探しました。ーーー
そこでSENさんは、かねてより親交のあった若い職人さんに相談し、木取りの作業を委託することに。
自分に合ったやり方を模索し、本当に良いと思える木型を作っていきたい。
SENさんの気持ちは、作り手同士の繋がりに支えられながら実現し、今に至ります。
カモメさんぼんのこと
豊島レモンと讃岐和三盆のハーモニーひろがる、HIYORIのカモメサンボン。
ひらりと羽ばたくカモメの木型は、SENさんに彫ってもらいました。
今までの和三盆にはなかったパリッと食感を生むために、お干菓子の厚みをぎりぎりまで薄くしたい!
そんなHIYORIのアイデアをSENさんにお伝えし、なるべく彫りの“浅い”木型を作ってもらうことに。
ーーー面白いって思った。今までにないものを作るっていうHIYORIさんの考えが。だから、難しそう…っていうのはその後かな。
木型の彫りが浅すぎると上手く型抜きできないし、せっかく型抜きできてもお干菓子を袋詰めする時に欠けちゃう。あと、浅く彫りつつカモメの羽根に飛んでいるようなウェーブ感を出すのが…難しかった。
何度もHIYORIさんと話して、微調整しながら作りました。ーーー
木を深く彫り込みながら模様をつけていくのが、木型作りの主流。
浅い彫りを保ちつつ、和三盆の中に適度な強度と躍動感を両立させるには、菓子木型というもののイメージを捉え直すプロセスが必要でした。
じっくりと完成させたカモメサンボンは、ここにしかない美味しさ!
新たな挑戦を、新世代の作り手であるSENさんと共に達成できたこと…HIYORIにとって大きな実りとなりました。
どんな和三盆や木型を作る時にも、昔の職人さんから学ぶことは沢山あります。
ーーー古い木型って、すごく自由で動きがある。今にも動き出しそうなカニとか…。
伝統的なものたちは、遊び心をもって、いきいきと作られていたんだなぁって。それでいて、きちんと使いやすい。ーーー
こつこつ作り続ける中でしか磨かれ得ない、確かな技術と味のある作風。
時代を超えて感動をくれる伝統工芸の良さを大切に、自分たちのものづくりを進めていきたいと思います。
現在SENさんは、HIYORIの木型の他に、SNSを通じた注文も受けておられます。
お干菓子を作る人、お茶の教室をやっている人、とにかく木型が好きで飾りたい人…客層はばらばらで、オーダーされる木型も様々。
ひとつひとつの木型とじっくり向き合いながら、SENさんらしく仕上げます。
仕事の合間には、SENさん自身が使う木型をこつこつ作りためているとか。
ーーーゆくゆくは自分も、「うわぁ、可愛い」って思うような木型を彫って、それで作った和三盆やラムネの販売ができたら。
菓子木型を手に取る人はまだまだ少ないから。ラムネみたいに身近なお菓子を木型で作れば、もっと木型に興味を持ってもらえるかなぁって。ーーー
さらに、自分の木型を用いた子ども向けの《菓子木型体験ワークショップ》も構想中!
ーーー菓子木型にまつわる体験の中で、木型面白い!って思ってくれる子がいても嬉しいし、和三盆おいしい!っていうのもいいし、どこに重きを置こうとは考えていなくて。
自分の心に刺さったものをその子なりに考えて、変えていってくれてもいいし、なんか繋がっていかないと。菓子木型の文化が全くなくなっちゃうっていうのは、もったいないと思うんです。ーーー
自分でやってみて感じることが大切。SENさん自身も、そうやって木型の道へと進んできました。
“きっかけ”は、多ければ多いほどワクワクします。HIYORIの和三盆も、誰かにとっての“きっかけ”になれば!