瀬戸内パウダーラボとは?
瀬戸内そだちのサトウキビや果物のよさを、もっと多くの人たちに知ってほしいーーー
熱い想いを胸に、日々こつこつと研究に励む“ラボ(研究所)”があること、ご存知でしょうか?
その名も【瀬戸内パウダーラボ(以下、パウダーラボ)】
日和制作所と一緒にHIYORI WASANBONを運営している会社です。
パウダーラボの代表を務める石野雅俊さんは、もともと日和制作所のメンバーとして活動していました。
和三盆を取り扱ってほしいと感じたお店を直接訪問して交渉したり、より多くの人たちに和三盆を知ってもらうための“和三盆作りワークショップ”を開催したりと、「実際にやってみる」ことを大切にする姿勢は当初から変わりません。
その後、担当業務を分けるためにパウダーラボとして独立。
従来行っていた営業活動と和三盆を広める取り組みに加えて、オンラインショップの運営と、HIYORI WASANBONに欠かせない原材料の研究・開発にも力を注ぎ始めました。
和三盆という同じテーマのもと、日和制作所は菓子木型をはじめとする伝統工芸品やクラフト製品に、パウダーラボは原料となるサトウキビに着目しました。
「今では、サトウキビを含む瀬戸内の農作物全般の発展を目指し、様々な事業を進めています」
自分で育てて、考える
愛媛県にある四国中央市。その名の通り四国の全県に面しており、海にも山にも恵まれた豊かな街です。
パウダーラボは、2017年からここの耕作放棄地の活用を開始。
ロハス企業組合さんの協力を得ながら、サトウキビの栽培・黒糖と白下糖への製糖・パウダー化(黒糖パウダー、和三盆糖)・黒糖や糖蜜といった関連商品の開発に取り組んでいます。
「一般的に、サトウキビ生産と精糖は分業されているので、全部通して知っている!という人は少ないようです。
一貫した流れを実践しないと分からないことは沢山あり、まさに日々研究……という感じですね」
例えば、精糖の過程でとれる糖蜜。
コク深い甘みと洋酒のような芳香が魅力の貴重な蜜ですが、従来なかなか活用されてきませんでした。どうにかして、何かに活かせないだろうか……。
縁あって知り合った東京の〔ベーカリーハイジ〕さんに相談したところ、なんとはるばる香川までお越しくださり、精糖の様子を見学した上でレシピを考案してくださったのです。
そうして生まれた【和三盆食パン】は、香ばしく焼けたパン生地に糖蜜と和三盆がしっとり溶け込んだ贅沢な逸品。どんな人も幸せになれる美味しさです。
今では、評判を知った他のベーカリーさんからも「うちでも糖蜜を使ったパンを焼きたい」と問い合わせが来るようになりました。
「ハイジさんのような感性豊かな人たちにサトウキビのことを話すと、色んなものに取り入れてアイデアをくれるんです。
そういった新たな展開のきっかけを作るために、僕もどんどん知識を付けていきたいです」
ここにしかないフルーツパウダー
パウダーラボの主力事業のもうひとつが、フルーツパウダーの製造と販売。
生の果物から搾った果汁にでんぷんを混ぜて霧状に噴射し、熱風をあてて水分を飛ばすと、天然のうまみがギュッと凝縮されたパウダーが出来上がります。
この〔スプレードライ製法〕を用いて、瀬戸内でとれた農作物を使いやすく加工する取り組みです。
フルーツパウダーのはじまりは、HIYORIのカモメサンボン。
瀬戸内海に浮かぶ豊島でその土地らしい和三盆を作る企画が立ちあがり、食材を探す中で出会ったのが堤郁恵さん(株式会社til 代表)の豊島レモンでした。
みずみずしく育てられた無農薬レモンは、そのまま和三盆にしたいくらい美味しい。
けれど、和三盆は生地に加えられる水分量に限りがあるため、果汁のままだとレモン味が薄く仕上がってしまいます。
皮から作ったピールパウダーも試しましたが、やはり何か違う。
果汁をパウダー化できる方法を探したところ、幸運にも香川県内にスプレードライ製法を行える設備がある施設を発見!
すぐに利用手続きをとり、レモンパウダーの試作に明け暮れました。
「果汁に混ぜるでんぷんの種類、熱風の温度と強さなど、山ほどの微調整を繰り返してやっと形になりました。約2年はかかったかなぁ。
今ではパウダーラボにも設備を導入し、様々なお菓子屋さんや会社さんからレモン以外のフルーツパウダーをご注文いただいています」
食材の製造注文は、結構な量を発注しないと受け付けてもらえないイメージかもしれませんが、パウダーラボでは100gという極小ロットから製造可能です。
個人で営む小さなお店や、スペシャルなメニューを少量だけ作りたい料理人さんにもおすすめ。
「◯◯農園さんのところのフルーツを使いたい」といった要望は、こだわりを持ってやっておられるお菓子屋さんたちからよく聞かれます。
「彼らの声に寄り添ったら、小ロットでも対応したいなぁと自然に思い至りました。
農家さんたちも、自分が育てた農作物がどんなパウダーになるのか楽しみにしてくれているようです。
試食しながら「めっちゃ香り残っとるやん!」と感動してもらえた時はすごく嬉しいです」
農作物のおいしさは青果のままがいちばんだけれど、季節物だから常に手に入るわけではありません。その点、パウダー化すればいつでも使えるし、和三盆やチョコレートのように水分量を制限して作りたいものにも香料なしでフルーツの存在感が出せます。農家さんにとっても、果汁のまま冷凍しておくコストに比べたら遥かに扱いやすい。
「どうしても青果のままで使えない、置いておけないと困ったときに、僕たちのパウダーを思い出して貰えれば……」
伝統にふれつつ、おいしい体験を
2023年にパウダーラボは、精糖で搾り終えたサトウキビの繊維から“和紙”を作ることにチャレンジしました。
石野さんのサトウキビ研究は、ついに食べ物の枠を超えたようです。
「僕たちがサトウキビを栽培している四国中央市は、昔から紙漉きが盛んな街なんです。これまでずっと畑の肥やしにしていたサトウキビの繊維ですが、地域の伝統と組み合わせながら、愛媛県の人たちと共に実験してみました。
今後、紙漉きの工程を見直しながら品質を安定させ、皆さんが手に取りやすい形へと改良していくつもりです」
そう、サトウキビや和三盆は、地域の様々な文化や歴史と密接に関わり合いながら続いてきたもの。
それらを知り、新たな活用を考えるとき、アイデアの“切り口”は決してひとつではありません。
「だから和三盆って、自由研究にもってこいなんです。ワークショップの時、手作りの紙芝居や動画を使って和三盆のことを説明すると、みていた子どもさんたちは各々の関心あるジャンルにあわせてどんどん掘り下げてくれます」
そう語る石野さんが輝いて見えるのは、常に彼自身も活動の根っこに“好奇心”を持ち続けているから。
そこを共有できているから、日和制作所とパウダーラボは心地いいリズムで歩んでいけるのかもしれません。
知って楽しい、食べて美味しい。和三盆の魅力を、これからも沢山の人たちに味わってもらえますように!