さしすせとの生まれるところ|イルボンさんインタビュー
さしすせと、わさんぼん。
シンプルで素朴な響きのフレーズ。
口に出して呟くと、言葉が自分の中に溶け込み、心地よく残り続けます。まるで、和三盆を食べた後に感じる幸せな余韻のよう。
HIYORI のコピーを手掛けたのは、大阪にあるギャラリーyolcha(ヨルチャ) のオーナー・イルボンさん。彼はいわゆるコピーライターではなく、“ネーミングライター”として名付けをする仕事をしています。 例えば、屋号、芸名、プロダクト名など、社会の様々な場面で必要な名前をつけてゆきます。一方で影絵芝居や人形劇などのステージに立ち、語りや朗読を軸にした舞台俳優の顔も持っています。
イルボンさんとHIYORI が紡ぎ出したコピーの裏側には、ここにしかないストーリーがありました。
HIYORI を、外側から表してみる
自分たちのやっていることや大切なものを直接的に伝えるよりも、もっとやわらかな言葉とリズムにのせて、それぞれの人に受け取ってほしい。
そう考えている時に出会ったのが、ヨルチャに掲示されていたイルボンさんの文章でした。
様々な作家さんたちがここで展覧会を開催する中、イルボンさんはいつも「この作家さんはどのような人か」ということを、物語のはじまりを感じさせるタッチで書き表します。
そこには読み手の想像力をくすぐってくる面白さがあり、自然と展覧会に足を運びたくなります。
―――ギャラリーを始めてから、展示のタイトルや作家さんの名前を考えたり、作品やプロダクトに名前を付けたり、そういう必要が生まれてきました。人から頼まれて行う場合もあって。わたしは基本的に、言葉を“導く”のが好きなので。そういうのをちょくちょくやっているうちに、これは、需要があることなんだなって。
イルボンさんなら、HIYORI の姿にどんな言葉を導くのだろう。 導かれた言葉たちは皆さんにどう届き、なにをもたらすのだろう。
まだ見ぬ言葉を楽しみに、コピー制作をお願いしました。
コピーへの道のり
まず、相互にイメージを出し合いながら、コピーの大枠を決めていきました。
その後、どの要素を盛り込み、どれを削ぎ落すか選んだ上で、最終的な形に整えていきます。
私たちだけでは絞り切れなかった部分も、客観的な視点と字数制限の中で少しずつ整理されていきました。
思考がどんどんクリアになっていく感覚は、とても面白かったです。
―――もともとわたしは、テキストを作って声に出す朗読を仕事にしているので、文章においてもリズム感 が重要なんです。 色々な人たちにコピーを口ずさんでもらい、わたしたちが知り得ないほど遠くまで辿り着いてくれれば。
そう話すイルボンさん。
難航しながらも完成したのは、どこか詩を思わせるやさしいコピーでした。
「せとうち生まれの和三盆」という存在感を
ここで、コピーにひそむ仕掛けを少しだけご紹介。
日本では昔から、家庭でよく使用する調味料を「さしすせそ」で言い表しますね。 さ=砂糖、し=塩、す=酢、せ=醤油 (せいゆ)、そ=味噌。これらが絶妙に組み合わさることで、様々な料理が出来上がります。
キャッチコピーの「さしすせと、」にも、その一音一音に別の要素があることが示唆されます。
和三盆を作るためには欠かせない要素がたくさんあります。 瀬戸内の風土、そこで育まれた素材、収穫する人、製糖する人、木型を彫る人...... 全てが関係し合った先に聞こえるのは、和三盆という名の美味しい和音。
また、そこに続く「わさんぼん」には、日常のあらゆるシーンに和三盆をプラスすれば、ちょっと特別ないい日になるよ!というメッセージも隠れています。
もちろん、言葉の味わい方に決まりなんてありません。
コピーを通して伝える良さと、感じてもらう良さ。両方あるから面白い。
その在り方自体が、皆さんに知ってほしいHIYORIらしさかもしれません。